紙上法話

相手のことを思いやる心を

「口の中の斧」と「舌は身を斬る刀」


 原始仏教経典の『スッタニパータ』に「口中の斧」という言葉があります。「人は生まれた時から口の中に斧を持っており、愚者は悪口を言い、その斧で自分を切り割くのである」という意味を持っています。この斧とは舌の事です。自らが発する言葉には注意しなければならず、特に悪意を持った言葉にはその言葉を受け取った人は必ず怒りを感じ、恨みを持ち、それが何らかの形で自分の所に苦しみとなって帰ってくるといった教えであります。

これと同様の意味を持つのが「口は災いの元」という諺です。この諺は中国の古典の事物や詩文などを分類した書物である『古今事文類集』の「口は是れ禍の門、舌は是れ身を斬るの刀なり」という一文が元になっています。その意味は不用意な発言は身を滅ぼす要因となる事もあり、言葉が自らに災難をもたらす事も多いので、迂闊に言葉を発するべきではないという戒めを指します。

自分自身の過去を振り返ると、些細な事で弟と兄弟喧嘩をし、つい怒りに任せて酷い言葉を言って泣かせてしまった事がありました。その時、軽率な言動により弟を泣かせてしまった事で、傷付けた私自身が居た堪れない気持ちになり、自分の発言を深く後悔した事を覚えています。

「一生が間・賢なりし人も一言に身をほろぼすにや。」『兄弟抄』

日蓮大聖人さまは、一生の間賢人として暮らした人でさえ、只一言で其の身を亡ぼす事もあるとご教示下さっておられます。信者であった池上兄弟が父親と信仰面の問題で対立していた際、諦めずに法華経の信仰を続ける事の大切さを説く為、古代中国の伯夷・叔斉という二人の賢人の故事を用いて二人の短慮を戒められました。

ついうっかりの言動が全世界に配信される時代

 近年、インターネットの発達やスマートフォンの普及、SNSの広がりによって様々な情報をすぐに知ることができるようになりました。しかし、その反面、不適切な発言や行動をしたことが即座に全国、全世界に伝わってしまい、炎上という形で想像していた以上の非難、批判を浴びるということが当たり前になってしまいました。

これは著名人だけに限らず、私たち一般人でも炎上の危険性と常に隣り合わせです。今や事件や事故があると周りの人はすぐにスマートフォンを取り出して写真や動画を撮るようになりました。つい言ってしまったこと、やってしまったことを誰かが動画や文章としてインターネットに公開すると、それはすぐに拡散され、一生残り続けます。これまで以上に自分の言動、行動には注意しなければなりません。

また、誹謗中傷の問題もあります。インターネットは匿名で発言できることから特定の人物への心ない悪口や虚偽の書き込みが多発し、それによって自殺へと追い込まれた方もいます。誹謗中傷への厳罰化がされましたが、未だに誹謗中傷に苦しむ方が絶えない状況です。画面越しでお互いの顔が見えないからと言って何を言ってもいいのか、誹謗中傷された側はどう思うのかなど相手の立場になって考えることができればこの問題も少なくなるように思えます。

相手の立場になって考えるとは相手のことを思いやる心を持つことと言えます。法華経と日蓮大聖人さまの教えを持ち、行う私たちが率先して相手のことを思いやる心を持ち、己の言動を律することが必要です。改めてまず私たちから始め、相手のことを思いやる心を周りの人々に伝えていき、その和が広がり、皆が総和となって幸せな社会が築けるように精進していきましょう。

-紙上法話

error: Content is protected !!

Copyright© 日蓮宗霊断師会-公式サイト , 2024 All Rights Reserved.