梅子のす(酢)き声を聞けば、口に唾たまりうるおふ。世間の不思議すら此の如し、いはんや法華経の不思議をや。
『法華経題目鈔』文永三年正月。聖祖四十五歳(三四二頁)
法華経の不思議
最高気温が続けて更新されるなど、今年も暑い夏でした。九月となりましたが、まだ残暑は続く様子。メディアでも、熱中症予防の対策などが盛んに報じられています。こまめな水分補給と、適切な塩分補充は、定番ですね。
熱中症対策に効果的とされている食べ物の一つに梅干しがあります。梅干しには塩分はもちろん、ビタミンやミネラルが豊富で、クエン酸も含まれているので、疲労回復や夏バテにも非常に効果的なのだそうです。さて、実際に梅干しを口にしなくても、梅干しを目にしたり、食べることを想像するだけで、自然に口の中に唾がたまってきます。「パブロフの犬」で知られる条件反射ですが、これは梅干しに含まれる酸(すっぱい成分)が歯のエナメル質を溶かさないように、酸を中和して口の中のpHバランスを保つ唾液の「緩衝作用」を働かせるということで、人間の防衛本能からくる生理現象なのだそうです。
条件反射という生理学な知識は、鎌倉時代にはありませんでしたから、大聖人はここで「世間の不思議」と仰っておられます。でも、生理のメカニズムが分かっている私たちにとっても、身体がこうした反応を起こすこと自体、生命の不思議と感じられますね。私たちが何故このような能力を持つようになったのか、考え始めると盡きることがありません。
世間で当たり前に起こることですら、こんなにも不思議なのですから、法華経、お題目の不思議は如何なるものか。
引用文の少し前の部分で、大聖人が言及されておられるのは、お題目を唱えさえすれば、その意味すら分からなくても、悪趣を免れ(地獄、餓鬼、畜生、修羅に堕さない)、成佛するということです。
妙法蓮華経のお題目とは何でしょうか。それは言葉でいくら説明しても、説明し盡すことが出来ないものです。ですから、事実を以て説明に代えます。
梅干しを見るだけでどうして唾が出るのか。この理屈が分からなくても、唾が出れば、口の中は護られます。お題目を唱えることによって、何故、霊験神秘の不思議が起こるのかが解らなくても、人生苦を脱することが出来ます。これを以信代慧の法門と言います。お題目を信唱することで、覚りを得たのと同じ結果を得るのです。
これこそが法華経、お題目の不思議です。