観音法華眼目の異名と云って、観音即ち法華の
体なり。所謂、南無妙法蓮華経の体なり。
『御義口伝』弘安元年。聖祖五十七歳(一四七九頁))
観音即ち法華の体

Canon(以下「キヤノン」)という企業をご存じのことと思います。言うまでもなく世界に冠たる日本の精密機器メーカーです。昭和八年に前身である「精機光学研究所」が創立されて、翌九年に日本初の精密小型カメラを試作、「KWANON(カンノン)」と名付けられました。観音様の御慈悲にあやかり世界で最高のカメラを創る夢を実現したい、との願いを込めたものだそうで、当時のロゴ・マークには千手観音が描かれていました。
現在の社名である「キヤノン」は、昭和十年、カメラの本格的な発売開始に向けて、世界で通用するブランド名として商標登録した、「聖典・規範・標準」の意味を持つ英単語canonに基づきます。「キヤノン」の発音が「観音=カンノン」と似ていたことも大切な理由でした(キヤノンのウェブサイトを御参照ください)。
キヤノンの例を上げずとも、観音様(観世音菩薩、観自在菩薩)が、宗派を超えて信仰を集めて来た菩薩であることは、申し上げるまでもないことでしょう。
観音菩薩は、様々な経典に登場しますが、最も代表的なのは「妙法蓮華経 観世音菩薩普門品」です。「普門品」は、「観音経」とも呼ばれ、法華経を依経としない多くの宗派でも読誦されています。
さて、今月の御聖文は、日蓮大聖人が身延山においてなされた法華経講義を、六老僧のお一人日興聖人が筆録された『御義口伝』の一節です。
少し専門的に過ぎることではありますが、『御義口伝』では、法華経二十八品と開経無量義経、結経普賢経それぞれの「○箇の大事」について講義された本伝に、「廿八品に一文充(ずつ)の大事」「廿八品悉く南無妙法蓮華経の事」という別伝が付せられています。そのうち、右は、「廿八品悉く南無妙法蓮華経の事」の「普門品」についてのお言葉です。
観音様(観音経)と法華経との関係について、「眼目異名」とされ、「観音即ち法華の体」と述べておられます。すなわち眼と目とは名称が違うけれども同じものであるように、観音様と法華経とは、名前が違っているだけで、その体は同じである、と仰っておられるのです。ここで言う「体」とは、「実体、本質」という意味です。但し、気を付けなければならないのは、「法華の体」、「南無妙法蓮華経の体」というのは、観音が法華の体である、観音が御題目の体である、ということではなく、法華経、御題目が、観音経、観音菩薩の本体である、という意味であることです。
普門品は、観世音菩薩の「息災延命」の現世利益を説く「甚深の秘品」ですが、その利益、功徳は、すべて南無妙法蓮華経のお題目から顕れて来るものなのです。