◆人生の失敗の多くは欲が原因している。過ちをしでかすのも大抵は欲の故である。人間に欲がなくなれば、この世の苦労のほとんどは無くなってしまうに違いない。その代わりに、生きる甲斐のない味気ない人生を送ることになるであろう。欲と徳とを同居させて、この矛盾を解決するのが、お題目の信仰である。
◆「沈香も焚かず屁もひらず」ということわざがある。沈香を焚いて良い香りを薫らすこともしないが、おならをして悪臭を放つようなこともない、ということで、特に悪いこともしなければ良いことをするわけでもないこと、無害だが有益でなく、平々凡々であることをいう。己れを利するのが屁をひるであり、他者を利することが沈香を焚くである。他者を害せずして己れを利し、己れを損せずして他者を利する呼吸が肝要である。
◆薬にも毒薬や劇薬がある。そうした危険な薬も、適量を用いれば、人の命を助ける。人間の欲も同じである。欲に目が眩み、欲に溺れれば人生の失敗が待っているが、己れを利するために働きながら、自然に他者を利し、世の中のためになる用い方があるのである。
◆その急所は簡単である。先に他者を利するようにすれば、自然に己れを利するようになる。己れを先に利する考え方しかできないと、毒薬を毒薬として受け取るようにしかならない。他者を先に利する考えを持つと、毒薬を良薬に変える。その呼吸を巧まずして行えるようになるのが、正しい三大秘法の信仰である。