紙上法話

遺してくれた母の「お菓子箱」

新聞記事に投稿した40代男性の思い出


 ある新聞に母が亡くなったことをきっかけに、住み慣れた家を処分した時の思い出を投稿した40代男性の記事がありました。

 その男性が荷物を整理していると、物置の隅から菓子箱が出てきました。開けてみると古い封筒や紙切れなどがたくさん詰められていたのです。

 そういえば亡くなった母は、何でも大切にしまっておく人でした。菓子箱には男性が幼かった時の写真に小さなメモが添えられており、事細かくその時の思い出が記録されていたのです。

 男性が生まれた時のこと、幼稚園でのお遊戯会、小学校の運動会や、中学生の文化発表など、写真にたくさんの思い出が書かれていました。

 驚いたのは大人になるまでの成績表が残されていたこと。ほめられた記憶はないけれど、母が「仏さまにあげておきなさい」と仏壇に成績表を乗せて、手をあわせていたのは記憶していると、40代男性は語ります。

 その男性の母は、わが子への期待を大きくして子育てしたのでしょう。

 日蓮大聖人さまに帰依した信心深いご婦人に、日妙尼(にちみょうあま)というお方がおりました。鎌倉のご信者さんで、夫と離別し、幼い娘の乙御前(おとごぜ)をひとりで育てながら純粋な信仰を貫いた女性です。

 日妙尼は文永9年5月、幼い乙御前の手を取り鎌倉を出発し、佐渡配流の日蓮大聖人さまを慕うお気持ちで困難な道のりを乗り越えて、佐渡へ向かい、日蓮大聖人さまと面会されました。

 されば妙楽大師のたまはく「必ず心の(もと)(より)て神の守り則ち強し」等云云。人の心かたければ神のまほり必ずつよしとこそ候へ。是は御ために申すぞ。(いにし)への御心ざし申す(ばかり)なし、(それ)よりも今一重強盛に御志あるべし。『乙御前御消息』

 日蓮大聖人さまは、篤き信心にて佐渡まで訪ねたことを大いに讃え、日妙尼が純粋に信仰して、母一人娘一人で生き抜く勇気を与えるために、「信心強く信仰すれば、倶生霊神さまのご守護も必ず強く守り、大難を乗り越えられる。より一層信心強盛に祈りなさい」と励まされました。

母に込められた期待と受け継いだ愛と信仰

 母娘の姿は日蓮大聖人さまの心に大きな感動を与えたばかりでなく、日蓮大聖人さまのご尊容とご慈悲、母の熱誠溢れる信仰の姿を目の当たりにした佐渡訪問は、乙御前の幼心に強く残ったようです。

 小さい頃から身についた手をあわせる習慣は大人になっても忘れません。たとえ習慣にならずとも私たちの記憶には残り続けるものです。

 倶生霊神符を着帯し、寿量ご本仏さま、日蓮大聖人さまの日頃のご守護に感謝してお題目を唱えると、他人から受けているご恩に気づける心と感謝の心が養われます。

 ご先祖さまにお題目を唱えると親孝行の心が育まれます。願いごとを叶えて欲しいとお題目を唱えて祈ると、自分の立ち位置を(わきま)えて自らの言動を省みる懺悔の心と強盛な信心が(そな)わるのです。

 新聞記事を寄稿した40代男性には娘さんがおり、小学校へ入学させることができたと語ります。できれば立派な人間に育ってほしいと期待が膨らんでいったそうです。

 その時思い出したのが、母のお菓子箱。振り返ると自分が母の期待に応えられたのだろうかと綴り、記事は終わりました。

 それを知っているのがお仏壇の向こう側で私たちを見守る、大曼陀羅ご本尊さまや日蓮大聖人さま、ご先祖さまです。法華経・お題目を信心強盛に唱え、育ててくれたご恩に感謝することが大切なのです。

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