紙上法話

誰もが仏となる法華経

母と妻とどちらを助ける?


 「もし私の母と妻が川で溺れていたら、どちらを先に助けたら良いのでしょうか」
或る時、お釈迦さまは弟子の一人にこのように質問されたそうです。
お釈迦さまはどのようにお答えになったと思いますか?
また、皆さまがこう問われたとしたら、どうお答えになりますでしょうか。
男性・女性の方でしたら、「母と妻」を「父と夫」に置き換えて考えてみてください。
この問いについて、宗教評論家のひろさちや氏は、信仰する宗教によって優先順位が変わってくると指摘しています。
キリスト教やユダヤ教では、妻を先に助けるべきと考えられているそうです。
神(ヤハウェ)は、天地を創造して6日後、自身に似せて最初の人であるアダムを土から造りました。それからハヴァ(エバ=イブ)を作ったと、『聖書(旧約聖書)』の「創世記」に記されています。
つまり、人類は親子からではなく夫婦から始まっているので、妻を優先するのだそうです(因みに、よくハヴァはアダムの肋骨から造られたと言われますが、これは元のヘブライ語の『聖書』の誤訳のようです)。
儒教では、母が先となります。
例えば『孟子』では、秩序ある社会を形成して行くためには、何よりも親や年長者に対する親愛・敬愛を忘れないことが肝心であると説き、こうした心を「孝悌」と名づけました(「孝」はよく親に従うことを言い、「悌」は兄や年長者によく従うことを言います)。
ですから、当然、儒教では、親を助けることが優先されなければなりません。

平等大慧の教え

 仏教ではどうでしょうか。
お釈迦様のお答えは「救いやすい状態にいる者から救いなさい」というものであったそうです。
どちらを先に助けるかを迷っているうちに、ふたりとも流されてしまうかもしれません。大切なことは今できることを行うこと。命には優先順位などないというのが、仏教の教えです。
そのようなお釈迦さまの教えを受け継いでいるはずの仏教でも、しかしながら、なんやかやと差別を設けて、それを教えとして来た歴史があります。
例せば、南都六宗の中で最も勢力が強かった法相宗には、五性各別(ごしょうかくべつ)という教えがありました。
衆生が先天的に具えている素質に五種があり、①声聞種姓、②独覚(縁覚)種姓、③仏種姓(如来種姓・菩薩種姓)、④不定種姓、⑤無種姓に分かれているとします。①~③は必ずその性の果を得て声聞種性なら声聞となり、独覚種性なら独覚となり、仏種性なら菩薩となり仏になります。④は可変性を持ち何になるのかは修行次第、⑤はいずれの素質をも有さず、永久に成仏できない、としました。
また、女性は梵天王、帝釈、魔王、転輪聖王、仏身の五つになれないという五障があるとする思想も、広く行き渡っていました。
法華経は、声聞・縁覚・菩薩の三乗の別を超越する「平等大慧一乗」の経典であり、竜女の女人成仏・提婆達多の悪人成仏を解き明かす悉皆成仏の経典です。
日蓮大聖人さまは『観心本尊抄』に
「仏の所説において爾前の諸経には二乗・闡提は未来永不成仏。教主釈尊は始成正覚なり。法華経の迹本二門に来至して彼の二説を壊る」
と仰せになり、法華経以前の諸経で説いていたことを否定して、二乗の成仏と釈尊の久遠実成を明かにされた、と示しておられます。
法華経・お題目こそ、あらゆる差別を乗り越え、全ての人が成仏する教えなのです。

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